人事からみた採用とキャリアアップの実情

長年の採用・教育経験から新卒就活、転職、シニア転職、キャリアアップを企業側からの目線で情報発信していきます 

日本理科学工業に学ぶ働く意味

シンプルに働くを考える 

「働くを考える」と言ってもテーマの幅が広いですよね

「テクノロジーの進化で仕事が変化していく社会に対応する」

「人生が100年に伸びてライフプランを見直す」

少子高齢化社会を考える」

「終身雇用からジョブ型雇用に変わっていく労働市場を考える」

などなど議論は尽きないです

資本主義を熟知した人達からすると

労働市場に自分という労働資産を投入して収入を得る

②金融市場で金融資産に投資して収益を得る

③不動産市場に不動産投資して収益を得る

④権利資産(特許・印税・YouTubeなど)で収益を得る

の中の①という考え方になりますが、一般庶民の私達は生きるために労働して賃金を得るというのが大多数だと思います

その考え方を核として「高賃金」「社会貢献」「安定した雇用」など人それぞれの価値観が加わっていきます

「最近の若者は働く情熱が弱い」などとも言いますが、イタリアでも「できることなら働きたくない」という若者が大多数となり、米国も②の株式投資をいずれメインにしたい」という若者が増え続けています

先日もZ世代の社員に「YouTubeだけでなくTwitterでも稼げるんですよ」などと言われました

Ⅹ世代⇒Y世代を経て、Z世代の労働観は①が下がり②や④が大きくなってきているように感じます

「生きる為に労働をして収益を得る」の労働の部分が変わりつつあり生きる為に収益を得るが労働とは限らないという方向になりつつあります

シンプルに働く意味を考えたいと思います

 

4つの幸福を得る為

『日本で一番大切にしたい会社』という本を私は教育・研修責任者としてバイブルにしています

以前「障害者の仕事を支援する」でも紹介しましたが、神奈川県川崎市日本理化学工業株式会社という会社があります

主にダストレスチョーク(粉の飛ばないチョーク)の製造を行っている会社です、従業員50名のうちの70%以上が障害者の会社です

はじまりは50年前、近くの養成学校の先生の訪問で「障害を持つ2人の少女を採用して欲しい」という依頼です

当時、専務だった大山泰弘さんは悩みに悩み「気持ちはわかりますがうちでは無理です 申し訳ございません」と断ります

しかしその先生はまたやっていきます 

また断ります 

またまたやってきます 

それでも断ります

3回目の訪問の時に、先生もついに諦めこう言いました

「せめてお願を一つだけ・・・ あの子たちに働く体験だけでもさせてくれませんか? そうしないとこの子たちは働く喜び・働く幸せを知らないまま施設で死ぬことになる

障害者は平均的に寿命は短いといいます

頭を地面にこすり付けるようにお願いする先生に大山さんは「1週間だけ・・・」という条件で、就業体験を引き受けます

就業は9時からですが、その子たちは雨の日も風の強い日も毎朝7時には玄関に来ていたそうです

仕事は簡単なラベル張りでしたが、10時の休憩・昼休み・15時の休憩にも仕事に没頭して手を休めようとせず、毎日背中を叩いて「もう休憩だよ」と言われるまで一心不乱だったそうで、本当に幸せそうな顔をして一生懸命仕事をしていたそうです

1週間が過ぎ就業体験が終わる前日、十数人の社員全員が「お話があります」と大山さんを取り囲みます

あの2人を正社員として採用してください私たちが面倒を見ますから

全員の総意だと言います

大山社長は障害者採用を始めた当初「なぜ彼らが働きたいのか」わからなかったそうです  

障害があるのなら施設でのんびり暮らした方が楽なはずです

彼らは「好きな仕事」「やりがいのある仕事」を選べたり、考えたりする立場にはありませんし、 大金を稼げるわけでもなく、出世を夢見ることもできません

それでも朝から就業時間いっぱいまで働きます

そこで大山社長が気が付いたことは人間にとって生を受けた以上

人の役に立ちたい

人に必要とされる人間になりたい

という欲求が社会的動物である人間の根幹にあるということ

手を動かし、頭を動かして働きさえすればいいのです

幸福とは

人に愛されること

人に褒められること

人の役に立つこと

人に必要とされること 

なのです このうち「人に褒められること」「人の役に立つこと」「人に必要とされること」は施設では得られないことだったのです   

〈日本でいちばん大切にしたい会社〉坂本光司著 参照 

 

何のために生きているのか

大山さんは上野動物園の西山園長が「最近の動物園の動物は自分の子供を育てないんです!どうやら外敵もいない安全なおりの中でエサを与えられていると、子供を育てるという本能を見失ってしまうようです」という言葉に衝撃をおぼえます

子供を外敵から守る必要がない・狩りをしてエサをとる必要がない・・・何のために生きているかを見失っていると気づきます

大山さんは

人間にとって生きるとは、必要とされて働き、それによって稼いで自立することと確信したそうです

それならそういう場を提供することこそ、企業の存在価値であり社会的使命だと考えるようになります

普通は自分たちの作ったラインに人間を合わせるのですが人を工程に合わせるのではなく、工程を人に合わせるという思想の元、機械を変え、道具を変え、部品を変えていきます

最初は「障害者の採用なんて無理」と思っていた大山さんも、彼らと働くうちに『人間の働く意味』の真理を確立していきます

安全・安心・安定した成熟した社会を創り上げた先進国こそ、動物園の動物のように『生きる意味』を見失いかけているのかもしれません

 

本日も最後までお付き合いいただきありがとうございました