無冠の帝王
私が生まれる前に現役だったプロレスラーに『神様カールゴッチ』がいます
神様と呼ばれるぐらいですから相当強い人で、アントニオ猪木さんやUWF選手のような実力重視派のレスラーには師匠として慕われていました
カールゴッチがハワイにいると聞けば、猪木さんは自費でハワイまで飛んで教えを請うたと言われるほどの実力者です
カールゴッチには神様の他に『無冠の帝王』という呼ばれ方があります
いわゆるメジャーなタイトルのベルトに縁がなかったということです
「一番強いのになぜ?」と思われるかもしれませんが、プロレスは興行なので「客を呼べる人間にベルトを巻かせないと!」という側面があります
強いが客を沸かせられず、集客力もないゴッチにメジャーなベルトは任せることができないということです
多くのレスラーは人気のがあり集客力のあるレスラーに「この人に食わせてもらってる」という敬意をはらいます
強い弱いではなく、稼げるか稼げないかということが基準です
ゴッチは晩年、ごみ収集業の仕事をしており「あなたほどの人が何でこんな仕事を?」という問いかけに「実力でなく人気で評価されるプロレス業界に誇りを持てない!この仕事の方がよっぽど誇りを持てる」と述べています
実力=冠ではないという現実です
プロスポーツのようにいかない役職
とある老舗の支店がありました
昭和期は人口増で、しかも景気のいい地区なので平成になりすぐ近くにもう一つ新しい支店を作ります
コロナの打撃を大きく受け人口減も著しいその地区は、ここにきて支店を一つにまとめます
スクラップ&ビルドは極めて正しい経営判断ですが、問題は閉鎖される支店の社員です
全国転勤可の社員は問題ないですが、地域限定の社員は問題があります
県をまたいで異動してくれる人は少数だったので、ほとんどが平成にできた第2支店に異動希望でした
「思ったより他の地域に分散できなかった」のは人事部の力不足として、なんとか第2支店に押し込むものの一部社員の不満が抑えきれません
不満はベテラン社員の「冠=役職がない」でした
「アシスタントマネージャーやチーフでいいから役職はつけてほしい!無冠はごめんこうむる」
「支店閉鎖は会社都合だ!逆に第2支店を閉鎖してこちらに統合もありえたはずだ」
というものです
どこの会社でもそうですが、役職には限りがあります
「無冠で移動する気はない!」とも何人かには言われました
雇用の過渡期に苦しむX世代
役職定年が議論されるたびにつくづく「55歳定年時代は良かったな」と思います
終身雇用&年功序列を摺り込まれて社会に出たX世代は「途中で冠=役職を剥奪される」ということにかなりの苦痛を感じます
全国の60歳以上の男女に「何歳ごろまで収入を伴う仕事をしたいか(又はしたかったか)」を聞くと「70歳までやずっといつまでも働く」と答える人は年々増えてます
寿命の延びと比例して、現役を望む日本人は増えています
70歳・75歳・80歳と伸びる労働社会で「ずっと人に雇われる意識ではキツイ」ということを理解しだしているのはY世代以降で、X世代は雇用変化に苦しんでいます
諸外国から「60歳を過ぎて働かされる日本人はかわいそう」と言われていますが、労働信仰の摺り込まれた日本人は生きている限り働こうとする人が多いです
キリギリスがアリを見て「労働病」と感じるようなものです
逆に「遊びを知らない無趣味民族」ともいえます
「日本人の男性は一人遊びが下手だ」とも聞いたことがあります
昭和に比べ令和は20年・25年労働期間が延びることになります
「50代で役職を奪われ、四半世紀の期間を若い管理職の下で惰性で生きるのか!」というのも確かに酷です
とはいえ若い世代も実力をつけてくるので「適正な時期に適正な役職」にはつけたいのが人事です
Y世代⇒Z世代と進むにつれ「役職よりスペシャリストとしての評価」に拘るようになっていきます
社会変化に自分の考え方が付いていけなくなると苦痛を感じるようになります
「50代のうつ病は増えている」
「50代でうつ病になると元には戻れない」
と同級生の精神科医に言われたことがありますが、今後社会問題になるかもしれません
若い世代は「だから国をあげてリスキリングを推奨している!学び直して新しい成長産業に行けばいいのに!」と言いますが、それができないからうつ病になるまで追い込まれているんです
労働期間が伸びれば、実力とキャリア=冠は無関係になってくる時代になりそうです
本日も最後までお付き合いいただきありがとうございました